まずはじめに

熱帯魚が生活できる水ってどんな水?~熱帯魚のための水つくり~

水面と水滴

水槽に水が入り、フィルターが稼働し照明がついている、ここまでくれば「魚を入れたい!」と多くの方が思うでしょう。
でも、その気持ちをもう少しだけ抑えてください。

あと2週間(できることなら1ヶ月…)我慢するだけで、皆さんの熱帯魚ライフは断然楽なものになります。
逆に言えば、ここですぐに熱帯魚を入れてしまうのは、自らいばらの道を進むことになってしまいます。

熱帯魚が生活できる水にする「水つくり」

細かいことは省いてざっくり説明すると、熱帯魚飼育における水つくりは『水の浄化機能を自然界(魚が本来住んでいる川や海)の状態に近づける』ことを意味します。

自然界というものは本当によくできていて、

生産者(水草など)→捕食者(魚など)→分解者(バクテリアなど)→生産者……

という、サイクルが常に回ってバランスが保たれています。いわゆる食物連鎖と呼ばれるものです。

水槽での飼育下でこれをすべて再現することは不可能なので、生産者の役割は人の手で代行します。これがエサやりです。

しかし、分解者の役割を人の手で代行することは現代の技術においても非常に困難です。そこで、分解者の役割を持つバクテリアにご登場いただき、水の浄化の役割を担ってもらいます。

これが『水つくり』でやろうとしている内容です。

水つくりではアンモニアの浄化が重要

それでは、水の浄化機能を「自然の状態に近づける」ということについて、もう少し詳しく説明していきながら、私たちが何をすればよいのか理解していきましょう。

熱帯魚飼育では何が「浄化」されれば良いのでしょうか?

答えはアンモニアという物質です。

このアンモニアが浄化される状態にしていくことを「水をつくる」と呼び、その状態になったことを「水ができた」「水が完成した」などと呼びます。

このアンモニアはえさの食べ残しや熱帯魚の代謝や糞などから次々と発生する、熱帯魚にとって有害な物質です。

そもそもアンモニアが発生しないようにできれば、水つくりなんていらないという考え方もできるのですが、残念ながら不可能です…。

アンモニアを分解する影のヒーロー「バクテリア」

バクテリアとは?

さて、その肝心のアンモニア、これを浄化してくれる心強い味方が目に見えないヒーロー、「バクテリア」なのです。

バクテリアは、アンモニアを餌にして亜硝酸塩→硝酸塩という物質に変えてしまう特性を持っています。

アンモニアと亜硝酸塩は熱帯魚にとって非常に有毒なのですが、硝酸塩は毒性が低く、高濃度にならなければ問題ありません。

私たちが水つくりでやることは、この働き者のバクテリアの数を熱帯魚を入れる前に増やし、熱帯魚がアンモニアなどの猛毒の中で生活しなければいけない危険性をゼロに近づけてあげることです。

バクテリアの発生と増加

ではバクテリアはどうすれば発生し、増えていくのでしょうか?

まず発生に関しては、私たちは何もする必要がありません。

バクテリアは、私たちの周りのいたるところ(空気中含む)に潜んでいて、水槽を稼働させていればいつの間にか水の中に住み着き始めます。

しかし、増加に関しては私たちが手伝いをしていく必要があります。それがバクテリアの餌となる「アンモニア」と彼らの生存に不可欠な「酸素」の供給です。

この2つを2週間供給し続けてあげることにより、アンモニアの数が増え「水ができた」状態にすることができます。

そのための具体的な方法を、次回いくつかのパターンに分けてご説明します。

水つくりの方法

水つくりにはバクテリアの増殖が必須で、バクテリアの増殖にはエサであるアンモニアと、生きるために必要な酸素を意図的に供給する必要があります。

それぞれの方法について、効果と難易度を合わせていくつか紹介するのでできるものを参考にしてみてください。

以下で解説するアンモニアと酸素の供給は同時に行ってください!

効果 星1つ 星5つ の5段階評価
難易度 星1つ 星5つ の5段階評価

アンモニアの供給方法

餌やり法

効果 ★★★★☆
難易度 ★★☆☆☆
短評 ただ餌を入れるだけの簡単作業で高い効果を得られる、おすすめの方法

餌やり法は、まだ生き物の入っていない水槽に定期的に餌を入れ続けるだけの簡単な方法です。

水槽に入れたエサは、当然水槽の中を漂い続けるだけですから少しづつ傷み、アンモニアを発生させます

目安として、飼育水10リットルに対し耳かき一杯程度の餌を入れてあげましょう。ペースは隔日を基準に、そこまで神経質にならず1日くらい忘れても大丈夫です。

この時使う餌は、今後熱帯魚を入れた時に継続して使えるものの方が無駄がなく良いでしょう。

期間中の水替えは2日に一度・水量の2割を基準に行ってください。餌やりと同じタイミングでやってしまうのが楽だと思います。

この方法の利点は、簡単なことに加え失敗してもリスクがほぼゼロ(=ただ水を変えてやり直せばいいだけ)ということです。

最初は加減がわからず、水が異常なほど白濁(水槽の向こう側が見えなくなるくらい)したり、腐敗臭がしたり(雑菌の繁殖)ということがあるかもしれません。

そんな時でも、水を入れ替えて気軽に再スタートできるというのは、初心者には心強いのではないでしょうか。

また、先ほど書いたように今後も使っていく餌を使用することで経済的かつですし、その水槽にあった種類のバクテリアが増加する確率も高まります。

水草法

効果 ★★☆☆☆
難易度 ★☆☆☆☆
短評 丈夫な水草を選べばあとは水替えをするだけの簡単な方法、前述の餌やり法との併用も可能

水草法は丈夫な水草を水槽内に投入し、アンモニアを発生させていきます。

効果は餌やり法に劣りますが、投入後は水替えをしていくだけなので極めて簡単で、しかも発生するアンモニアの量が緩やかなため、失敗がほぼない方法です。

投入する水草は、アマゾンソード・アヌビアス ナナ・ハイグロフィラといった、特別何もしなくても育っていく丈夫な種類を選んでください。

また、この方法を用いる場合は、照明の設置・稼働が必須になります。

期間中の水替えは、3日に一度・水量の2割を基準に行ってください。(餌やり法を併用する場合は、餌やり法に準拠)

楽で失敗も少なく良い方法なのですが、効果が低いことが難点です。

5日に1度程度餌を投入するなど、餌やり法を一部取り入れたり、水つくりの期間を3週間程度に延ばすなどした方が、より万全になります。

パイロットフィッシュ法

効果 ★★★★★
難易度 ★★★★★
短評 効果は高く初めから熱帯魚を投入できるが、高リスクでおすすめしない

「はじめから熱帯魚を入れてはいけない」という話と矛盾する内容ですが、水つくりの方法として「丈夫な魚を1匹だけ投入する」というのは広く知られています。

この最初の熱帯魚が“パイロットフィッシュ”と呼ばれる為、この名前になっています。

飼育書やインターネットなどでも紹介され、推奨されている場面も多くありますが、極めて高リスク・高難易度な方法であり、お勧めしません。

そもそも水つくりは、熱帯魚を安定的に飼育するために行うのであって、そのために熱帯魚を入れてしまうのでは本末転倒です。

どちらかといえば、“はじめから魚を入れたい”というワガママをかなえるための方法といえるでしょう。

最初に投入される魚は、アカヒレやネオンテトラといった丈夫な種が選ばれますが、それでもその魚が1か月後に生き続けている確率は高くありません。

期間中は高濃度のアンモニアが発生し、水量の2割を1日2回水替えすることで対応しても、限界があるのです。(それ以上の水替えは環境の変化が激しすぎ、違う意味で熱帯魚にとっての負担となります。)

ただし、熟練の飼育者が、十分な設備を用いて行うのであればこの方法は最善策になりえますので、そのレベルを目標にして、熱帯魚飼育にのめりこんでいってはいかがでしょうか。

種水法

効果 ★★★☆☆
難易度 ★★★★☆
短評 一定の効果は見込めるものの、種水の質に左右される

種水法は既に「水ができた」状態の飼育水を、新しい水槽に投入する方法です。

元からある飼育水(=種水)を基に、バクテリアを一気に増やそうとする方法です。

なお、飼育水を入れただけではアンモニアの発生源が存在せず、バクテリアは増えないので、餌やり法や水草法を併用するのが一般的です。

種水は自宅にある安定した水槽から持って来たり、熱帯魚ショップに頼むともらえる場合もあります。(ショップの方針により一切渡していないケースもあるのでご注意)

最初に投入する種水は、水量全体の5%を目安にしてください。その後の水替えは3日に一度・水量の2割を基準に、併用した方法にあわせて行います。

既に安定した水槽からのバクテリア移転なので、一定の効果は認められるのですが、自分の水槽と種水のバクテリアの相性が合わないと、失敗してしまいます。

また、種水にはバクテリアのほかに病原菌や雑菌がいることもあるので、その点がリスクとなってきます。

できるだけ信頼できるところから種水を確保しましょう。

市販バクテリア投入法

効果 ★★☆☆☆
難易度 ★★☆☆☆
短評 効果は限定的なうえ高コスト。まゆつば物の商品も多い。

熱帯魚ショップには、多くの「バクテリア商品」が販売されています。

“水槽の立ち上げが一瞬で完了”などがよくあるうたい文句ですが、実際これだけでは水つくりは完了しません。

残念ながら、効果の全く感じられないまがい物の商品が多いのも事実です。

効果がある商品を使う、という前提に立っても中身のバクテリアが自分の水槽になじみ、定着してくれるかはギャンブルの世界になってしまいます。

どちらかといえば、自分の水槽に適したバクテリアが増えるまでの繋ぎとして、市販バクテリアを投入する運用になる可能性が高いです。

そして、この方法を使うためには別売りのバクテリア商品を購入するので、コストも余計にかかります。(商品によりピンキリで、中には1万円以上するものも!)

正直なところ今まで紹介した中でも、なかなかお勧めする場面が見つからない方法です。

アンモニア投入法

効果 ★★★★★
難易度 ★★★★★
短評 アメリカではメジャーな方法。すさまじい効果があるも日本での活用には限界あり

最後に紹介するのは、日本ではそれほど馴染みがない方法です。

「バクテリアの増加にアンモニアが必要なら、直接アンモニアを入れたらいいじゃない」という、思想から生まれた、アンモニア投入法になります。

主にアメリカの愛好家たちの間で行われています。

直接的に働きかけをするので、効果は高いのですが、投入量やペースを間違えると一気に崩壊してしまうので、慎重に進める必要があります。

方法は純アンモニア(ドラッグストアなどで購入可)を、飼育水に対し10万分の1(=0.001%)投入するだけです。比率ではわかりにくいですが、10リットルの水槽にスポイト半滴程度の分量です。

ペースは始めの1週間が1日1回、その後2日に1回を基準に行います。

この方法がアメリカで広まっているのは、自宅の広さ(=飼育スペースの広さ)が一つの要因です。日本では、60cm水槽が一般家庭の最大サイズだと思いますが、アメリカでは最小が90cm、スタンダードサイズは120㎝水槽です。

このサイズになると水量は250リットル程になります。

他の方法を用いるより経済的にできるほか、水の多さは失敗の許容度に比例しますので、多少大雑把なやり方でもなんとかなる場合が多いのです。

日本でも可能な方法なので、大型水槽を導入しようとする場合にやってみるのも面白いかもしれません。

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